本日のブログは、スタッフIが美術展の鑑賞レポートをお届けします。
東京上野にある東京国立博物館 平成館において、2022年1月14日(金)~4月3日(日)の日程で開催の特別展「ポンペイ」を鑑賞してきました。
紀元後79年、イタリア、ナポリのヴェスヴィオ山噴火により、厚い火山灰の下に埋もれた都市ポンペイ。
約1万人が暮らした都市のにぎわいをそのまま封じ込めたタイムカプセルともいえる遺跡は、1748年の再発見以来、多くの人びとを魅了しています。
本展では、ポンペイ最大の邸宅「ファウヌスの家」などの一部を再現するほか、遺跡の臨場感あふれる高精細映像など、2000年前にタイムスリップできる空間演出もなされています。
ナポリ国立考古学博物館の150点におよぶ至宝を紹介、同館が誇る名品がかつてない規模で出品される“ポンペイ展の決定版”とも言える展覧会です。
特別展「ポンペイ」鑑賞レポート
全国へと巡回予定の特別展「ポンペイ」の東京会場は、上野にある東京国立博物館 平成館。
※東京開催後、京都(京都市京セラ美術館)、宮城(宮城県美術館)、福岡(九州国立博物館)へと巡回予定です。
まずはゲートでチケットを見せてから入場しましょう。
本館、表慶館、東洋館、平成館、法隆寺宝物館の5つの展示館に加えて、資料館やその他施設から成る広大な東京国立博物館は、敷地の中に入ってからお目当ての展示館を探します。
今回のお目当ては、平成館。
サンタ・マリア・デル・フィオーレ大聖堂(ドゥオーモ)みたいな形をした表慶館と本館のあいだを抜けて行くと、
ポンペイ展の看板が見えてきました。
さらに進むと、
平成館に到着です。
そして再度チケットを見せて入場すれば…
2000年前にタイムスリップ!の始まりです♪
本展は、噴火による都市の埋没を紹介する《序章》に始まり、5つの章立てで構成されているため、順を追ってご紹介していきたいと思います。
《序章》ヴェスヴィオ山噴火ポンペイ埋没
古代ローマ帝国の栄光と繁栄のもとに栄えたイタリア南部の都市「ポンペイ」。
今から約2000年前の紀元後79年、ポンペイの街はヴェスヴィオ火山の大噴火に見舞われました。
大量に降り注いだ火山灰と火山礫(かざんれき)が、暮らしのすべてを飲み込み街は消滅。
堆積した火山灰とともに一時は忘れ去られていた存在でしたが、18世紀からポンペイ遺跡の発掘が開始されると一躍注目を浴びることになりました。
街を襲った火砕流と火砕サージにより、市井の人々や彼らの生活情景が、まるで瞬間を切り取った写真のような保存状態で発見されたのです。
本展では、そのような歴史的価値のある出土品、約150品がふんだんに展観されており、2000年前の文化や生活様式を眼前で体感することができます。
《第1章》ポンペイの街-公共建築と宗教
東西1600m、南北800mほどの中規模の都市で、人口は1万人ほどであったと推定されているポンペイ。
第1章では、街の基盤となった公共施設やインフラにフォーカスを当てポンペイへ思いを馳せます。
中央広場や円形闘技場、浴場、運動場などの公共施設にまつわる作品も数多く展示。
当時、極めて重要な金属資源だった銅でした。
その中でも特に銅と錫の合金であるブロンズ(青銅)は、古代世界において最もよく用いられた金属であり、
ポンペイの公共設備では、水道の止水栓などにも利用されていました。
またほかにも、
アポロやウェヌス、イシスといった古代ローマの神々や、
人々の精神的な支えとなった宗教と信仰についても第1章では展覧されています。
《第2章》ポンペイの社会と人々の活躍
第2章では、裕福な市民たちの暮らしぶりを紹介。
ポンペイは貧富の差が激しい格差社会でしたが、古代社会としては流動性が高く、階層は固定されたものではありませんでした。
上流階級から奴隷階級まで格差があるものの、主人の遺言や金銭の支払いにより奴隷から自由民になる人もいたのです(解放奴隷)。
上流の豪奢な暮らし
上流階級者たちは豪華な部屋や装飾にこだわり、貴重な素材をふんだんに使った食器や什器を用いていました。
上流男性の知的生活
上流階級の証は政治的地位や金銭的な富裕さだけでなく、ギリシャ文化に関する教養も必要でした。
知的な文筆活動にいそしみ教養人であることを訪問者に印象づける目的もあり、住居の中に筆記用具とともに肖像を飾っていたり、トロイア戦争の物語の壁画を描いたりしていたようです。
女性の活躍
家父長制のローマ同様、ポンペイでも女性の地位は高くありませんでしたが、ビジネスの手腕で身を立てた女性がいたことも知られています。
女性としての最高の栄誉は市の公的神官になることで、巨大な回廊を建造し毛織物業者から肖像を捧げられたエウマキアがこれにあたります。
解放奴隷
解放奴隷は高位公職に就けませんでしたが、解放されてから生まれた子には市民権が与えられました。
大理石、ブロンズ
解放奴隷のルキウス・カエキリウス・フェリクスとおそらくその息子のユクンドゥスは銀行業を営み、富裕層と呼べるまでに社会的な上昇を果たしています。
この時代から広告が存在したというのも驚き。
文明の違いこそあれ、2000年前からすでに現在と同じうような社会の仕組みが構築されていたと思うと感慨深いものがあります。
《第3章》人々の暮らし-食と仕事
第3章では、都市の食生活や人々の日常生活を紹介します。
ポンペイの街全体で600以上の店や工房が発掘されており、住民は製造業、建設業、小売りや飲食業、サービス業など、さまざまな職業に従事していました。
露天商や行商人、肉体労働者もたくさんいて、大工道具、壁画家の道具、医療器具など専門的な職種に関連する遺物も見つかっています。
また、ポンペイには30軒ほどのパン屋があったと考えられており、当時の食生活を垣間見れる食品も出土品として展示されています。
ポンペイ出土
《炭化したパン》もその1つ。
銅や大理石と違って、劣化が激しい食品の原型をここまで閉じ込めた火山の脅威が生々しくと伝わってきます。
パン屋のほかにもテイクアウト可能な料理屋があり、出先で手軽に食事をとることができたそうです。
多くの人は外食に頼っていましたが裕福な家には台所があり、使用人たちが調理し、豪華な食事を供していました。
農産物や水産物の加工も盛んで、ポンペイ産のワインやオリーブ油、ガルム(魚醤)が各地に輸出されていたことも確認されています。
《第4章》ポンペイ繫栄の歴史
ポンペイが都市として大きく発展したのは、前2世紀の時代で、東地中海との交流が活発になり、ヘレニズム文化(=ギリシャ風の文化)が根付きました。
そして前1世紀にローマが台頭すると、ポンペイはローマの植民市となり、それ以後、ポンペイの社会や文化はローマ化の波に洗われていきます。
ポンペイ遺跡でも著名な3つの邸宅に注目する第4章。
ヘレニズム美術屈指のモザイク装飾に目を奪われる「ファウヌスの家」、ローマのもとでの繁栄を象徴する「竪琴奏者の家」、噴火直前に描かれたフレスコ画で知られる「悲劇詩人の家」という3つの邸宅のほか、それぞれが栄えた時代を映し出す作品を通じて、ポンペイの繁栄の歴史をより深く知ることができます。
ファウヌスの家-ローマ化以前の家
「ファウヌスの家」の談話室の床にあった《アレクサンドロス大王のモザイク》と、その手前の敷居にあった《ナイル川風景》を再現し、
見やすいよう、分かりやすいよう大きく投影していました。
これほど大きなモザイクを邸宅内に装飾していたことで、その邸宅自体の大きさを想像しながら体感することができました。
談話室のモザイク装飾や《葉綱と悲劇の仮面》のほかにも、「ファウヌスの家」からは多くの遺物が出土しています。
《アレクサンドロス大王のモザイク》と《ナイル川風景》のモザイク装飾だけでも豪奢と言えますが、いち邸宅の中からブロンズや大理石がゴロゴロ発掘される(=飾られていた)ということは、《ファウヌスの家》がポンペイで確固たる階級・立ち位置にいたことも想像に難く(かたく)ありません。
竪琴奏者の家-ローマのもとでの繫栄
増改築を重ねて、「ファウヌスの家」同様にポンペイで屈指の大邸宅だった「竪琴奏者の家」。
庭の中央には、細長い人工の池とブロンズの動物像が飾られた噴水がありました。
軒下には大理石の吊り飾りも。
男女の胸像は、「竪琴奏者の家」の家主だったポピディウス家の人物とされ、家族の一員を胸像で表現することは、限られた富裕者のみに許された贅沢でした。
持ち運び可能なブロンズ製の円形火鉢。
近年、ヴェスヴィオ山の噴火は8月ではなく10月末とする説が唱えられていますが、こうした寒い時期に活躍する火鉢が使われていた状況も、根拠の1つになっているそうです。
出土品によって状況の考察が変化するのはおもしろしいですね。
悲劇詩人の家-噴火前の輝き
天窓のある広間を中心とした伝統的な住宅。
家の名前の由来となった、家父長の部屋の床にある《劇の準備》のモザイクは、この家が建てられた前1世紀に敷かれました。
「ファウヌスの家」や「竪琴奏者の家」に比べて規模は小さいですが、
噴火直前期に広間に描かれた何枚もの神話画は、家の所有者のギリシャ文化に対する強い関心を示しています。
前述した通り、ギリシャ文化に関する教養は上流階級の証であり、トロイア戦争にまつわる壁画を飾ることで自らの知的さを訪問者に印象づける目的もあったのだと思います。
また、訪問者に番犬の存在を示すモザイクは広く見られ、ポンペイでも「悲劇詩人の家」をはじめ複数確認されています。
本作は四角いテッセラ(漆喰の地に埋め込まれるサイコロ型の小片)を用いる技法で作られたもの。
現在でもステッカーなどでよく見る「猛犬注意」のサインも、モザイク壁画で見ると高尚な犬に見えてきますね笑。
《第5章》発掘のいま、むかし
最終章となる第5章では、ヴェスヴィオ山の噴火で埋没したエルコラーノ(ヘルクラネウム)、ポンペイ、ソンマ・ヴェスヴィアーナの3遺跡をとりあげ、18世紀から現在に至る発掘の歴史を振り返ります。
エルコラーノ(ヘルクラネウム)
ブロンズ(象嵌:銀、銅)、目:骨、石
ポンペイよりもずっと硬い溶岩に厚く覆われたエルコラーノの土地の発掘は容易ではなく、現在でもまだ街の4分の1程度が明らかにされたに過ぎません。
ポンペイ
(左)《燭台》、(右)《綱渡りのサテュロス》ともにフレスコ
ポンペイ遺跡の発掘が本格的に始まったのは1748年こと。
街を覆う灰の層がエルコラーノよりも薄かったため、発掘は急速に進みました。
かつての発掘は美術品を獲得するための「宝探し」であったが、1960年代からは遺跡の保護が重要な課題となっています。
ソンマ・ヴェスヴィアーナ
1931年にヴェスヴィオ山の北麓(北側のふもと)でローマ時代の遺構が発見されたものの、ポンペイの発掘が優先され遺跡は再び埋め戻されました。
2002年にこの発掘を再開したのが、東京大学ソンマ・ヴェスヴィアーナ発掘調査団であり、現在までに《ヒョウを抱くバックス》や《ペプロスを着た女性》をはじめとした大理石彫刻など、目覚ましい発掘成果を上げています。
現在進行形の発掘作業や作品修復の様子も映像で紹介されており、
2000年前の歴史的遺構を次世代まで残していくための様子を垣間見ることができます。
特別展「ポンペイ」グッズショップ
絵画を身近なものに落とし込んだグッズ、特に美術展のときしか販売しない特設ショップを見るのが好きなのです。
鑑賞順路の最後にあるグッズショップが充実していないと、ちょっと損した気分になるくらいですから。
ポンペイ展のミュージアムショップはなかなか充実していました。
シュールだけどおもしろいグッズが多かった気がします。
クリアファイルそのものは別に好きではないけれど、“実際に体験した美術展でしか買えないクリアファイル”は好きなので毎回買います笑。
見るたびに鑑賞したときの気持ちや会場の雰囲気などを思い出すのでおすすめです♪
特別展「ポンペイ」まとめ
当記事では、東京国立博物館 平成館で開催の特別展「ポンペイ」について書いてきました。
本展のキャッチコピー「そこにいた。」
この短い言葉に、美術展そのものが端的に集約表現されていたと思います。
2000年前のある日、ヴェスヴィオ山の噴火により火山灰に閉じ込められた街、ポンペイ。
その“切り取られたポンペイの生活様式や文明”が2000年の時を経て目の前に広がっていました。
言葉で表現することは簡単。
実際に体感することで、2000年前のポンペイの日常を目の前で感じられることがどれだけ貴重なのかが伝わってきます。その頃の日本は弥生時代と考えると余計にそう感じますね。
上流階級や知的性のアピール、男女間で差がある社会進出具合…などなど、近代でもみられる縮図が当時からあったと考えると、貧富の差や男女格差というものはそう簡単に完全解消されるものではないのかもしれません。
同様に、古代ギリシャ・ローマ文化に見るリアルな肉体表現からさらに至高の美を追求した、現代にも通用する完成度の高い作品群を見ると、芸術の完成度に時代性は関係なく、その時代時代でそれぞれ最高峰のアートが創造されているのだと感じます。
ポンペイの作品群を目の前で観れること、この上ない貴重な体験でした。
この記事を書いた人:スタッフI
特別展「ポンペイ」開催概要
■展覧会名
特別展「ポンペイ」
■会場
【東京会場】東京国立博物館 平成館(東京都台東区上野公園13-9)Googleマップ→
会期:2022年1月14日(金)~4月3日(日) 9:30~17:00(入室は閉室の30分前まで)
休館:月曜日、3月22日(火)※ただし、3月21日(月・祝)、3月28日(月)は開館
【京都会場】京都市京セラ美術館(京都府京都市左京区岡崎円勝寺町124)Googleマップ→
会期:2022年4月21日(木)~7月3日(日)
【宮城会場】宮城県美術館(宮城県仙台市青葉区川内元支倉34-1)Googleマップ→
会期:2022年7月16日(土)~9月25日(日)
【福岡会場】九州国立博物館(福岡県太宰府市石坂4丁目7-2)Googleマップ→
会期:2022年10月12日(水)~12月4日(日)
■チケット料金 ※東京国立博物館の料金情報です
一般2,100円、大学生1,300円、高校生900円
※中学生以下、障がい者とその介護者一名は無料
※障がい者とその介護者一名は事前予約(日時指定券)不要
※事前予約制(日時指定券)を導入しています。会場でも当日券をご購入いただけますが、混雑状況により入場をお待ちいただく場合や、当日券の販売が終了している場合があります。
■公式サイト
https://pompeii2022.jp/