本日のブログは、スタッフIが美術展の鑑賞レポートをお届けします。
横浜駅東口にあるそごう美術館にて、2022年9月10日(土)~10月16日(日)の日程で開催の「アールヌーヴォーからアールデコに咲いたデザイン オールドノリタケ×若林コレクション」を鑑賞してきました。
開国後、世界に向けて開かれた港 横浜。
激動の時代のなか、横浜にゆかりある2人(森村市左衛門と大倉孫兵衛)の出会いは、オールドノリタケの発展に大きく貢献しました。
本展では、アールヌーヴォーの華麗な絵付けが施された作品や、アールデコの可憐なモチーフが儚く咲いた作品など、欧米に学びながらも独創性を開花させたオールドノリタケの優品が紹介されています。
「アールヌーヴォーからアールデコに咲いたデザイン オールドノリタケ×若林コレクション」鑑賞レポート
開催場所は、横浜駅東口にある商業施設そごう横浜6階の、そごう美術館。
1985年9月20日に、そごう横浜と同時に開館した、百貨店内の博物館としては日本初の博物館法に基づく施設です。
“ノリタケ”は、1870年代、森村市左衛門が作った民間初の日米貿易会社「森村組」、そしてそこから仕入れた商品をアメリカで販売するための現地法人「日の出商会(のちにモリムラブラザーズ)」から始まりました。
日本における洋食器のパイオニア、ノリタケに迫る本展は、作品に描かれた「モチーフ」、「スタイル」、「テクニック」、「ファンクション」という4つの観点からオールドノリタケが紹介・解説されています。
イントロダクションでは、オールドノリタケの代表的な技法「盛上(もりあげ)」に金彩を施す「金盛」の目玉作品《色絵金盛薔薇文飾壺》や、
実際に帝国ホテルで使われていた幾何学模様の食器などが陳列。
美術要素の強いファンシーウェアと、実用性の高いテーブルウェア・ディナーウェアを作っていたノリタケを象徴するかのようなオープニングアクトに納得です。
当記事では「モチーフ」、「スタイル」、「テクニック」、「ファンクション」という4つの観点の中から、個人的に興味深かった「スタイル」と「テクニック」に絞って紹介していきます。
オールドノリタケの「スタイル」
今回紹介されているオールドノリタケは、展覧会のタイトルにもある「アール・ヌーヴォー風」「アール・デコ風」のほか、「ジャスパーウェア風」と「クロワゾニスム風」を含む4つのスタイルが展覧されています。
スタイル【1】アール・ヌーヴォー風
アール・ヌーヴォー(Art Nouveau)とは、「新しい芸術」という意味のフランス語で、19世紀末から20世紀初頭にかけてフランスからヨーロッパを中心に広まった芸術の様式のこと。
草花の有機的なモチーフや曲線の組み合わせによる従来の様式に囚われない装飾性が特徴です。
オールドノリタケによるアール・ヌーヴォーの特徴は、金やエナメルによる華麗な絵柄が施されている点にあります。
スタイル【2】アール・デコ風
アール・デコ(Art Déco)とは、「装飾芸術」という意味のフランス語で、ヨーロッパおよびアメリカ合衆国(ニューヨーク)を中心に1910年代半ばから1930年代にかけて流行した様式のこと。
幾何学的で単純化されたモチーフにした記号的表現や、原色による対比表現、はっきりとした色彩が特徴です。
オールドノリタケのアール・デコには、光の反射によって輝く「ラスター彩(さい)」も使われるようになりました。
ニューヨークの現地法人モリムラブラザーズ内に図案部を設け、製造は日本で行うという工程を引いていた当時。
そこには「米状神聖(べいじょうしんせい)」という掟が存在しており、モリムラブラザーズから届いた指示はいかなることでも従わなければならなかったそうです。
デザイン画も重要な米状で、金彩まで事細かに指示されたデザインは日本の森村組専属画付工場で忠実に再現され、アメリカで製品販売を行う。
アメリカ人の趣向や好みを熟知した現地デザイナーがデザインするだけに、アメリカでも好評を博すことができました。
このアール・デコ風のキャンディー缶は、アメリカ人デザイナーがブロードウェイミュージカル「マダム・ポンパドール」のために描いたポスターを基にしたもので、現地でとても人気なデザインとなったそうです。
日本国内にいる日本人デザイナーではできなかったデザイン、日本法人だけでは獲得できなかった販路・顧客層にアプローチできた、ノリタケの先見性が凝縮された一品に思えてきます。
スタイル【3】ジャスパーウェア風
1759年にイギリスで創業したウェッジウッドの創業者、ジョサイア・ウェッジウッドが独自開発した代表的な食器シリーズ「ジャスパーウェア」は、素地(きじ)が格段になめらかでマット調な見た目が特徴。
ウェッジウッド同様にオールドノリタケのジャスパーウェア風の文様も、ギリシャ・ローマ風のいわゆる新古典主義的なモチーフが散見されます。
スタイル【4】クロワゾニスム風
ポスト印象主義の頃、ポール・ゴーギャンらが推進した、単純な輪郭線で仕切ったベタ塗りの色面で絵画を構成する「クロワゾニスム(仕切り主義)」。
古典的西洋絵画の2大要素である、遠近法と陰影法から脱却したスタイルを絵付けしたのが、クロワゾニスム風のオールドノリタケ製品です。
平面が特徴かつ魅力のクロワゾニスムも、花瓶にするとどこか立体的な印象になるところにおもしろさを感じます。
オールドノリタケの「テクニック」
代表的な技法である「盛上(もりあげ)」は、器の表面に粘土や絵の具を盛り上げて文様を浮き上がらせる技術で、欧米でも「Moriage」として知られているほどの技法です。
ほかにも盛上に金彩を施す「金盛(きんもり)」や釉(うわぐすり)を溶かして腐食させる「腐らし」というエッチング技法、
器の表面を天井に盛り上げ金彩を塗りかぶせる「ビーディング」、
器面に虹のような輝きをもたらす「ラスター彩」、表面にキャンバス地のような模様をつける「布目」、濃紺に発色する「コバルト」など、多くの技法がオールドノリタケの製品を形成しています。
虹色に輝く「ラスター彩」をまといポップな色で彩られ、愛らしい形をした陶磁器は人気を博し、アメリカのアールデコの隆盛の一翼を担ったのです。
個人的に魅力を感じたスタイル、「布目」と「コバルト」。
成形したばかりの素地(きじ)に布を貼り付けて焼き上げ、表面をキャンバス地のような器肌にし、マット釉を施す光沢のない仕上がりが特徴の「布目」は、至近距離で見て初めて表面の装飾(キャンバス地)に気づくほどで、金彩やエッチングに比べると大人しく、主張しすぎない模様に幽寂閑雅な美しさを認めました。
また、濃い紺色の器肌が特徴的なフランスの名窯(めいよう)セーヴル窯を意識したのが「コバルト」技法を使った製品です。
濃紺の器肌に金色のアクセントカラーがビビッドに映える、境界のはっきりとした色調。
撮影不可のため写真はありませんが、コバルト金彩のほかにも、深紅+金彩の磁器も威風堂々したカッコ良さがありました。原色系の色使いに惹かれるという個人的な好みが強いですね。
ちなみにオールドノリタケには、エミール・ガレ風の盛上もあるようです。
それも見てみたい…!
ノリタケとは?
日本における洋食器のパイオニアと言われているノリタケですが、そもそもどういう歴史を持っているのか?まとめてました。
1876年、開国から間もない頃、森村市左衛門は日本における民間初の日米貿易会社「森村組」を銀座に構える。
1978年、兄:市左衛門に共鳴した、弟:豊(とよ)はアメリカに渡り、日本から送られてくる陶器や伝統的な日本の雑貨を販売していく森村組の現地法人をニューヨークの6番街に創業(日の出商会。のちにモリムラブラザーズ)。
その頃、日本の森村組には、市左衛門の義弟:大倉孫兵衛(後の大倉陶園創業者)が参加し、美的感覚に非凡な才を発揮する。
1889年、パリ万博を視察した市左衛門と豊は、機械化・合理化された作業工程による均質な陶磁器の大量製造を目の当たりに。これを機に洋食器の量産に踏み切る。
1893年、シカゴ万博で欧州先進国の陶磁器を見た大倉孫兵衛は洋風画の絵付けに衝撃を受け、さらなる活路を開拓するためアメリカ人の好みに合わせた洋風画に舵を切る。
1900年、パリ万博において日本的なデザインは遅れを取っていたが、すでに洋風画へと舵を切っていたためノリタケはデザイン性の先取りができていた。
1903年、白色硬質磁器の製造に成功、翌1904年に、森村市左衛門、大倉孫兵衛、飛鳥井孝太郎らによって日本陶器合名会社(現:ノリタケカンパニーリミテド)を設立。
大倉孫兵衛というのは後の大蔵陶園創業者、飛鳥井孝太郎は後の鳴海製陶創業者でもあります。
1914年、日本初のディナーセット「セダン」が完成、輸出が始まる。
1981年、創業地である愛知県愛知郡鷹場村大字則武にちなみ、「株式会社ノリタケカンパニーリミテド」に社名変更。
1876年に創業された森村組ですが、長年にわたり培ってきたさまざまな技術から派生し、世界最大のセラミックス集団「森村グループ」へと発展してきました。
高級陶磁器のノリタケカンパニーリミテドのほか、衛生陶器・温水洗浄便座を製造販売するTOTO、がいし・セラミックスを製造販売する日本ガイシ、スパークプラグを製造販売する日本特殊陶業、恒久陶磁器を生産する大倉陶園などが名を連ねています。
「オールドノリタケ×若林コレクション」まとめ
「ノリタケ」というブランドに、ここまで歴史があり、先見性や時代への順応性があることを初めて知った展覧会でした。
1710年のマイセン創業に始まり、欧州を代表する西洋磁器の名窯は数知れず存在します。
隆盛を極めた時代を経て、多くの洋食器メーカーは閉窯を迎えたり、ブランドを維持していくために合併・吸収されたり…
そんな中においても「日本における洋食器のパイオニア」として時代を切り開いただけでなく、世界的にも高い知名度を誇るメーカーへと成長し、はたまたセラミックスやガイシ…etc. としても後世に残す会社を築き上げたこの功績は計り知れません。
社員への訓戒として掲げた森村市左衛門の言葉「至誠事に当り、もって素志を貫徹し、永遠に国利民福を図ることを期す」。
この教えは、森村組から数えて創業140年以上経つ今も脈々と受け継がれているそうで、現在も「誠実であること」をポリシーとして掲げ美しい洋食器を生み出し続けている“NORITAKE/ノリタケ”は、パイオニアであり、これから先のリーディングカンパニーでもあり続けるのではないでしょうか。
この記事を書いた人:スタッフI
「オールドノリタケ×若林コレクション」開催概要
■展覧会名
アールヌーヴォーからアールデコに咲いたデザイン オールドノリタケ×若林コレクション
Old Noritake China and the Wakabayashi Collection
Design from the Age of Art Nouveau and Art Deco
■会場
そごう美術館(神奈川県横浜市西区高島2-18-1 そごう横浜店 6階)Googleマップ→
会期:2022年9月10日(土)~10月16日(日) 10:00~20:00(入館は閉館の30分前まで)
休館:そごう横浜店の営業時間に準じ、変更になる場合があります。
■チケット料金
一般1,200円、大学・高校生1,000円、中学生以下無料
■公式サイト
https://www.sogo-seibu.jp/common/museum/archives/22/noritake/
※当記事の一部写真は、PR TIMESのプレスリリースから引用しています。