本日のブログは、スタッフIが美術展の鑑賞レポートをお届けします。
東京渋谷にあるBunkamura ザ・ミュージアムにおいて2022年9月17日(土)~11月10日(木)の日程で開催の「イッタラ展 フィンランドガラスのきらめき」を鑑賞してきました。
イッタラ創立140周年を記念し、フィンランド・デザイン・ミュージアムが2021年に開催した展覧会を再構成し、さらに日本展ではイッタラと日本の関係に焦点を当てた章を加えて展開します。
「イッタラ展 フィンランドガラスのきらめき」鑑賞レポート
フィンランドを代表するライフスタイルブランド、イッタラ。
本展は日本初のイッタラ大規模巡回展として、イッタラの歩みを象徴する20世紀半ばのクラシックデザインのガラスを中心に、陶器や磁器、映像やインスタレーションを交えた約450点を通してその技術と哲学、デザインの美学に迫ります。
イッタラと日本の関係は古く、1950年~60年代にイッタラを代表するデザイナーのカイ・フランクはたびたび来日し、日本の工芸やデザインに触発された作品を残しました。
21世紀に入ってから国際的なコラボレーションを積極的に進めているイッタラは、イッセイ ミヤケとミナ ペルホネン、建築家の隈研吾と行われた仕事を通して日本との新たな交流も生み出しています。
今日では洋食器メーカーとして有名なイッタラですが、スタートは1881年にガラス工房として誕生しており、創業期は家庭用のグラスボトルやボウル、薬瓶などを製造していました。
代表的な洋食器シリーズである「ティーマ」や「オリゴ」などは、もともとアラビアやロールストランドが製造していたもので、買収や合併などにより現在では、デンマークのロイヤルコペンハーゲンやフィンランドのアラビア、イギリスのウェッジウッドなどを傘下に持つフィスカース・グループの一員となっています。
ちなみに“イッタラ”という名称は、フィンランドの首都ヘルシンキから北へ約120kmに位置する、現在もガラス工場のある村の名前が由来です。
紆余曲折あるイッタラの転換期は1920年代から1930年代にかけて、実験的で芸術的な商品を作るベンチャーへと事業拡大していったところにあります。
その成功例の1つが、アイノ・アアルト、アルヴァ・アアルトのアアルト夫妻の起用でした。
アアルト夫妻を含め、今も残るヒット作を世に送り出したイッタラの代表的なデザイナーを3人だけ紹介します。
実践的な耽美主義者「アイノ・アアルト」
当時としては非常に珍しい女性建築家だったアイノ・マルシオは、フィンランドの著名な建築家アルヴァ・アアルトの事務所に入社(後にアルヴァと結婚)。
1932年、アイノがコンペティションのためにデザインしたのが、日常使いのガラス製品シリーズ《ボルゲブリック(水紋)》でした。
スウェーデン語で“水紋”を意味する《ボルゲブリック》シリーズは、機械で製造できるプレスガラスとしてデザインされており、イッタラはこの手頃な価格の美しい製品をより多くの家庭に届けられるようになりました。
アイノのガラス製品の原点は、ガラスの持つ多様性と、シンプルで場所を取らず積み重ねられる(スタッキングできる)デザインにあり、このコンセプトは今なおイッタラに受け継がれているのです。
モダニズムの巨匠「アルヴァ・アアルト」
近代建築およびデザインの巨匠として知られているアルヴァ・アアルトの代表作《アルヴァ・アアルト コレクション》は、世界でもっとも有名なガラス製品の1つであり、時代を超越したイッタラのアイコンにもなっています。
アルヴァのデザイン哲学の中心には、「優れたデザインは日常生活の一部であるべき」という思想があり、彼の作品はその信念を明確に体現。
アルヴァがデザインした中で最も有名なものとされている《アアルト ベース》は、彼の建築の特徴同様、自由な曲線を生かしたデザインで、左右均等の球形が中心だった既存のガラス工芸デザインを刷新しました。
型の曲線が深い部分に吹きガラスで均等にガラスを行き渡らせることはむずかしく、製品化にあたってより高度な技術が必要とされ職人を悩ませたそうです。
当時も今も革命的「カイ・フランク」
“フィンランドのデザインの良心”として広く知られている伝説的デザイナー、カイ・フランクは不要な装飾や余分なものをそぎ落とし、普遍的で機能的かつ汎用性の高い食器づくりを追求しました。
1945年、フィンランドの北欧食器の雄、アラビアに入社。
翌1946年、第二次世界大戦の敗戦国となったフィンランドで、戦傷の癒やされない庶民食卓をいかに豊かにするかを考え、過剰な装飾を一切なくし、高い機能性と実用性を兼ね備えた「キルタ」シリーズをデザインしました。
それが爆発的な人気となり、誰もが快適に利用できるユニバーサルデザインの象徴的な作品へと成長を遂げました(「キルタ」は現在、「ティーマ」と名称を変え、イッタラを代表するシリーズとなっています)。
同じく1946年にカイ・フランクはガラスデザインのコンペに入賞、イッタラ社のデザイナーにもなったのです。
色彩を愛するカイ・フランクは生涯をかけて実験を続け、豊かで生き生きとした色の世界を生み出します。
この功績によってイッタラ独自のカラーパレットが生まれ、カラーガラスの製造におけるイッタラの世界的名声が確立されたのです。
そんなカイ・フランクは日本とのかかわりも深く、来日した際に触れた日本の陶磁器や木工、織物、紙製の工芸品などに注ぎ込まれている想像力の豊かさに圧倒されたと言われています。
無駄や余計なディテールを嫌う彼の姿勢に、日本特有の繊細な意識が共鳴したのではないでしょうか。
鎌倉や益子、名古屋、京都にも赴いており、龍安寺の建物と石庭を「おそらく今まで見たなかで最も美しいものだ」と評していたそうです。
「イッタラ展 フィンランドガラスのきらめき」まとめ
好きなイッタラ・アラビアのデザイン哲学に、「芸術は日常生活の中にこそあるべき」というものがあります。
第二次世界大戦後、マンションなどの住居でスペースが限られたことでガラス製品や食器の形状に変化が起き、“積み重ねられる”形状の食器が大きな人気を博すようになりました。
イッタラが提唱していた実用性や耐久性。
収納しやすく、スタッキング(積み重ねること)が容易であることは、今でこそデザインの原点として当たり前になっています。
実用性や機能性、耐久性、汎用性に優れていながら芸術性を日々の暮らしに落とし込んだ哲学に基づく功績は大きく、日常でも特別な場面でも活用できる製品、それがイッタラ製品の真骨頂だと思います。
誰でも無料で見たり使ったりできる工業製品やパブリックアートにこそ情熱を注ぎ込んだ岡本太郎に通ずるものがある…と心をよぎりました。
本展は“イッタラのガラス”がメインですが、ガラスであれ食器であれ、製品を作る根底に共通して流れている“イッタラのデザイン哲学”。
「家にはいろんな種類の食器があるが、イッタラはどんな食器に組み合わせても良いようにデザインしてある」という考えが個人的に好きです。
「イッタラで買い揃えてね」
ではなく、
「どんな食器にも合わせられるよ」。
そう言い切れるほどの自社製品への信頼度(=完成度の高さ)が、現代でも受け入れられ続けている所以なのかもしれません。
この記事を書いた人:スタッフI
「イッタラ展 フィンランドガラスのきらめき」開催概要
■展覧会名
イッタラ展 フィンランドガラスのきらめき
■会場
Bunkamura ザ・ミュージアム(〒150-8507 東京都渋谷区道玄坂2丁目24-1)Googleマップ→
■会期
2022年9月17日(土)~11月10日(木)
休館日:9月27日(火)
■開館時間
10:00~18:00(金・土曜日は21:00まで)
※入館は閉館の30分前まで
■チケット料金 ※東京展の情報です。
一般1,700円、大学・高校生1,000円、中学・小学生700円
※学生券をお求めの場合は、学生証の提示が必要です(小学生を除く)。
※障がい者手帳のご提示で、ご本人様とお付き添いの方1名様は半額となります。当日窓口にてご購入ください。
※未就学児は入館無料。
■公式サイト
https://www.bunkamura.co.jp/museum/exhibition/22_iittala/
「イッタラ展 フィンランドガラスのきらめき」巡回情報
【東京展】
Bunkamura ザ・ミュージアム(〒150-8507 東京都渋谷区道玄坂2丁目24-1)Googleマップ→
会期:2022年9月17日(土)~11月10日(木)
【島根展】
島根県立石見美術館(〒698-0022 島根県益田市有明町5-15)Googleマップ→
会期:2023年4月22日(土)~ 6月19日(月)
【長崎展】 ※予定
長崎県美術館(〒850-0862 長崎県長崎市出島町2-1)Googleマップ→
会期:2023年7月1日(土)~ 9月3日(日)
【京都展】 ※予定
美術館「えき」KYOTO(〒600-8555 京都府京都市下京区烏丸通塩小路下ル 東塩小路町 ジェイアール京都伊勢丹7階隣接)Googleマップ→
会期:2024年2月17日(土)~3月31日(日)