本日のブログは、スタッフIが美術展の鑑賞レポートをお届けします。
東京上野にある東京都美術館において、2023年4月27日(木)~8月20日(日)の日程で開催の「マティス展 Henri Matisse: The Path to Color」を鑑賞してきました。
約20年ぶりの開催となる20世紀芸術の巨匠アンリ・マティスの大回顧展。
本展では、フォーヴィスムの夜明け、マティス初期の傑作《豪奢、静寂、逸楽》が日本初公開されるなど、世界最大規模のマティスコレクションを誇るパリ、ポンピドゥー・センターから名品約150点を紹介しています。
鑑賞した日がゴールデンウィーク中でもあったため、東京都美術館を含む上野公園全体が人であふれ返っていました。
「マティス展」鑑賞レポート
20世紀を代表するフランスの巨匠、アンリ・マティス(1869〜1954)。
ギュスターヴ・モローに師事したのち、伝統的な絵画から脱するべく模索を続け、純粋な色彩による絵画様式であるフォーヴィスム(野獣派)を生み出し、モダンアートの誕生に決定的な役割を果たした、絵画界における巨匠です。
84歳で亡くなるまでの生涯を、感覚に直接訴えかけるような鮮やかな色彩と光の探求に捧げ、それらの功績は今なお色あせることなく人々を魅了し、後世の芸術家たちにも大きな影響を与え続けています。
本展は、若き日の挑戦から晩年の大作まで、巨匠マティスの芸術をたどる色彩の旅。
絵画に加えて、彫刻、ドローイング、版画、切り紙絵、晩年の最大の傑作であり、マティス自身がその生涯の創作の集大成とみなした南仏ヴァンスのロザリオ礼拝堂に関する資料まで、各時代の代表的な作品によって多角的にその仕事を紹介しながら、豊かな光と色に満ちた巨匠の造形的な冒険をたどるものです。
マティスのアーティスト活動の始まりから終わりまでが、第1章~第8章に分けて展開されています。
※第4章〜第6章のみ写真撮影が可能です。
フォーヴィスムの夜明け、マティス初期の傑作《豪奢、静寂、逸楽》が日本初公開されている点も大きな見どころの1つ。
新印象派のポール・シニャックと親しかったマティスは、美しい色、人間の感覚の根底にあるものを突き動かす色が必要と考え、現実とは異なる色を用いて点描の手法を取ったのがこの作品で、これがフォーヴィスムの出発点となりました。
立体の表現
会場内には彫刻作品も展示されています。
これらの作品は、型を作り、もともとリアルな人体の形を段階的に抽象化・簡略化させているのが特徴。
マティスは「体の構造や組織を不正確に描写しても、人物の内に秘められた本質的な真実が隠されてしまうことはない」と証明しようとしていました。
線の表現
彫刻以外にも、色と同じくらい大事にしていたのが“線の表現”、デッサンでした。
「私の線画は、私の感動の最も純粋な翻訳である」という言葉を残している通り、“線”がマティス作品の根幹の一部を担っているのです。
この言葉は、簡略化されて色彩に富む絵の中でも全体を司る“線の力強さ”が色彩と同じくらい印象強い、と感じていた点につながった瞬間でもありました。
油彩・カンヴァス
「線や色調での表現なら、想像力はすべての制限から解放される」とも語っており、表情が鑑賞者の想像力を殺してしまい特定の人物の姿をそこに見ることを強制してしまうため、顔を描いていない作品も多くあります。
実写映画と違って、小説なら読者がそれぞれ理想のキャラクター像を主人公に投影するので無限の理想が崩れない、、、ということと同義なのかなと腑に落ちました(^_^;)
色の表現
もはや言わずもがな…
“色彩の魔術師”と呼ばれているように、マティスは自分の感覚を色でも表現しています。
高齢と病気のために療養を続けながら、ドローイングや本の挿絵の制作などに没頭しつつも重要な仕事を残したマティス。
「私は最も単純な色彩を使います。7つの音符で組み立てられている音楽のように、数個の色彩で表現するのに何の障害もありません」
まさに本展のテーマのごとく、マティスの芸術をたどる色彩の旅が会場に広がっています。
「ヴァンス室内画」シリーズの第1作。
真正面から捉えられて奥行きを示唆せず、本来は隔たった位置にあるにもかかわらず、つながっているようにも見えます。
ともすれば色彩による、ゆがまない空間の圧縮。
「ヴァンス室内画」シリーズを締めくくる本作には、光としての色彩をめぐるマティスの仕事が凝縮されています。
90度に隣り合う2つの壁に掛けられたカラーと白黒の絵、円卓と四角い食卓、床に敷かれた異なる柄の敷物、すべてが2つの組み合わせで構成された赤色に支配された空間。
遠近があるべきところを平面的に描くことで2面性を際立たせ、リアルな空間に絵画的な緊張感を生み出す構図です。
《黄色と青の室内》も《赤の大きな室内》も、「私の線画は、私の感動の最も純粋な翻訳である」という言葉を表現するかのように、色彩の中でも線の強みが力強く放たれています。
総合的な表現
最晩年にあたる1948年から1951年にかけて、自身の集大成として手掛けたヴァンスのロザリオ礼拝堂。
建築、装飾、家具、オブジェ、典礼用の衣装などを含むこの総合芸術のために、これまで探求してきた技法を駆使して、光と色と線が融合する空間の創出を目指しました。
会場ではロザリオ礼拝堂の映像が流れており、マティスが愛した午前11時に差し込む冬の光や1日の礼拝堂内の光の移ろいは、マティスの目になって“その時”を共有体験できます。
「マティス展」まとめ
線と色彩の対立に悩み続けたマティスが、色彩とドローイングを1つにまとめるためにとった手法、切り紙絵。
惜しげもなく、躊躇もなく隣り合わせで原色を使う計算された大胆さ。
マティス作品の中でも特にそれを感じる作品が個人的に惹かれます。
「こういうバランスで、こういう配色なのに成立するんだ…」と感じることがしばしば。
本展で初めて見たロザリオ礼拝堂のファサードや建物も、別角度からのマティスを知ることができた貴重な体験でした。
この礼拝堂で午前11時に差し込む冬の光を見る贅沢さを、いつか体感してみたいものです(*^^*)
この記事を書いた人:スタッフI
「マティス展」開催概要
■展覧会名
マティス展
HENRI MATISSE: The Path to Color
■会場
東京都美術館(東京都台東区上野公園8-36)Googleマップ→
■会期
2023年4月27日(木)~ 8月20日(日)
休館日:月曜日、7月18日(火)
※ただし5月1日(月)、7月17日(月・祝)、8月14日(月)は開室
■開館時間
9:30~17:30/金曜日は20:00まで
※入室は閉室の30分前まで
■チケット料金 ※東京展の情報です。
一般2,200円、大学生・専門学校生1,300円、65歳以上1,500円
※小学生・中学生・高校生は、会期中無料(公式チケットサイト(ART PASS)にて日時指定予約が必要)。
※身体障害者手帳・愛の手帳・療育手帳・精神障害者保健福祉手帳・被爆者健康手帳をお持ちの方とその付添いの方(1名まで)は、会期中無料。日時指定予約不要。
※未就学児は、日時指定予約不要。
※高校生、大学生・専門学校生、65歳以上の方、各種お手帳をお持ちの方は、いずれも証明できるものをご提示ください
■公式サイト
https://matisse2023.exhibit.jp/