フジムラコンテンポラリーアートの詩人「MIYUKI」さん。
またまた素敵なものをいただいたので是非ご紹介させてください★
空の上の竜
ここは高い高い空の上。
実は空の上には人間の知らない竜の世界があるのです。そこには若い竜や子供の竜、いろんな年齢の竜たちが住んでいるのです。
よく晴れて白い雲が空に浮かんでいる日に空を見上げてごらんなさい。私たち人間が気付かないだけで、空の上では竜たちが遊んでいたりするのです。
でも、最近の人間たちは日々の生活が忙しく、空を見上げる暇がありません。
空を見上げないから、空の上の竜たちに気づかないのです。
時々のんびり空を見上げる人でもすぐには気づきません。
竜たちは雲と一緒になって空を飛んでいるのですから。
ですが、ふと空を見上げていて、『あら?あの雲、なんだか竜の顔に見えるわね』と気づく人がたまにいます。
なんとなく竜の顔に見えるものや、はっきりと目や口までわかるものもあります。
それまでは気づかなかったのに、一度竜の顔に見えると竜の顔以外には見えないものもあり、その表情も実に様々です。
たいがい人間たちが気づくのは竜の横顔です。
朝の光を浴びた雲や昼間の青空に浮かぶ雲、夕方、夕焼けの向こうに浮かぶ雲と、いろんな雲と一緒になって竜たちは空を飛んでいますが、横顔以外の空飛ぶ姿を見られたことはありません。
顔が雲に隠れていて細く長い体だけが見えていても、人間たちは、その細く長い雲が竜の体だと気づかないのですから当然といえば当然です。
ですが、その昔、一匹の竜がその姿を人間に見られたことがありました。
竜の空飛ぶ姿を見たのは一人の男の子でした。
その男の子は仲のいい友達とつまらないことでケンカをして、一人で丘の上の草むらに寝ころがってぼんやり空を眺めていました。
その丘の上は男の子だけの秘密のお気に入りの場所でした。
ぼんやりと空を流れる雲をながめながら、ケンカした友達のことを考えていました。
幼なじみの二人は小さいころからとても仲がよく、いつも一緒に遊んでいましたが、よくケンカもしました。
この日も二人はささいなことがきっかけでケンカになり、「もう、いいよ」とケンカ別れして、男の子は一人この丘の上にやって来たのでした。
空を流れる雲をぼんやり見ていると、雲が色々な形に見えて来てけっこう面白いのです。
あの雲は大きな手みたいだな、こっちの雲はなんだか階段みたいだ。
車の形に見える雲を見つけると、あの車に乗ってどこに行こうかなど、雲の形からいろんなことを想像して遊ぶのが男の子は大好きでした。そうやって雲をながめていると、つい楽しくて嫌なことも忘れてしまえるのです。
いろんな形の雲を見つけるのが大好きな男の子が特に大好きなのが竜の顔をした雲でした。
雲の中にはまるで何かの顔のように見える雲もあるのです。
そんな中に竜の顔のように見える雲があるのでした。竜の顔をした雲を見つけると、つい、うれしくなってしまうのです。
そして、今日の顔はすごいはっきりした顔をしているなとか、今日の竜は形がぼんやりとしてて、少し微妙な感じだなとか思いながら、その雲をあきることなくながめているのです。
特に男の子が好きな竜の顔は、いつか夕方に見た赤い夕日が後ろからあたっていた雲です。
目や口がはっきりとしていて、形も竜のように見えるその雲に、赤い夕日が後ろからあたっていて、まるで目が赤く光っているように見えて、とてもかっこよかったのでした。
この男の子には一つ忘れられないできごとがありました。
それはいつものように、丘の上に寝ころがって空をのんびりながめていた日のことです。
その日も空をながめていると、大好きな竜の顔の形をした雲を見つけて、その雲をじっとながめていました。
左を向いた竜の横顔の雲で、顔の形や眼がはっきりとしていた雲でした。どことなく、いたずらっぽい目をした顔です。
男の子がじっと雲をながめていると、ふと、竜と目が合ったような気がしました。
「え?」と思い、目をこすり、もう一度よく見ると、竜も男の子をじっと見ているような感じに見えるのです。
そのうち風が吹いて雲が少しずつ風に流され出しました。すると、竜の顔の右側にある横に細長い雲が、まるで竜の体であるかのように、顔と一緒になって右から左へと少しずつ動いていくのです。
その姿はまるで、竜が風に乗って空を飛んでいるようでした。長い長い体をくねらせて、ゆうゆうと空を飛んでいる竜の姿に見えたのでした。そんなまるで竜の姿に見える雲をながめていると、やはり竜も男の子をじっと見ているように見えるのです。
実はいたずらっぽい目をした竜は人間の男の子に興味を持っていたのでした。
竜の姿をしていた雲はそのうち本物の竜になり、いたずらっぽい目で男の子を見ながら、男の子に近づいてくるのです。
男の子はびっくりしながらも、わくわくした気持ちで竜を見ていると、竜は男の子のすぐそばまでやって来たのです。そして、いたずらっぽい優しい目で、さあ私の背中に乗りなさいとでもいうように首を後ろに向けたのでした。
男の子がおそるおそる竜の背中に乗り、そのうろこにしっかりつかまると、竜はふわっとそらふわっと空へ向けて上りだしました。
男の子が落ちることのないように、気をつけながら風に乗り、しばらくの間、大空を飛び回りました。
男の子は初めて空の上から見る景色のすばらしさに、声を出すのも忘れて、『うわ~すごい!』と思いながら見入っていました。空の上から見る町はまるでおもちゃ箱です。
どのくらい空を飛んでいたでしょうか。
竜は男の子がいた丘の上の草むらにゆっくりと下りて行き、男の子を丘の上に下ろすと、またゆっくり空へ上がっていったのです。
丘の上に下りた男の子は、「ありがとう」といつまでも手をふっていました。竜はそんな男の子の様子を楽しそうに空の上からながめていたのでした。
男の子はこの出来事を誰にも言いませんでした。
たとえ言ったところで誰も信じてくれないでしょうしね。だって自分でもまるで夢を見ていたような感じなんですもの。
でもたとえ夢だったとしても、とても楽しい忘れられない夢です。男の子は何度かこの後も竜の姿を目にしました。
男の子が竜を見るのは決まって友達と大ゲンカをして、一人丘の上にやって来た時でした。
友達とケンカをして元気のない男の子をまるで元気づけてくれるかのように、時々竜は姿を見せては、男の子を背中に乗せて空をしばらく飛び回ったのでした。
いつも竜と一緒に空を飛んだ次の日には、男の子はすっかり元気を取り戻して、友達とやっぱり仲直りしたいと思って、友達のもとに行き、「ごめんね」と謝ることができたのでした。
空の上の竜~その1~をお届けしました。次回もお楽しみに♪